中小企業診断士受験生の皆様の中には,最近補助金って単語をよく見るなと思っている方もいるかもしれません。中小企業診断士1年目は補助金の仕事を積極的にやっていこう! 補助金はもう今年で終わるから別の強みを見つけていった方がいい!などなど,様々な情報を目にしつつも「そもそものところ補助金って何?」と疑問に感じていませんでしょうか?
また一次試験の「中小企業経営・中小企業政策」でも補助金は頻出分野です。令和3年度ではものづくり補助金や事業再構築補助金,小規模事業者持続化補助金に関連する出題がありました。
本記事では,普段のように事業者様向けではなく中小企業診断士受験生の方向けに補助金制度について解説していきたいと思います◎ 補助金の概要をざっくり掴んでいただけたら嬉しいです!
補助金とは?
補助金は「国や地方自治体の施策の一つ」です。
国や自治体には「カーボンニュートラルを推進したい」「従業員の賃上げを推進したい」などといった政策目標(めざす姿)があります。国や自治体は,推進事項へ積極的に取り組む企業を支援することで政策目標を達成しようとします。その支援方法の一つが「補助金」です。各補助金では政策目標に合わせてそれぞれ「目的・主旨」が設定されています。
例えば人気の事業再構築補助金やものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)の目的は,以下のように設定されています。
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。
令和二年度第三次補正 事業再構築補助金 公募要領 (第5回)
中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行い生産性を向上させるための設備投資等を支援します。
令和元年度補正・令和三年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領 (10次締切分)
助成金や給付金と何が違うの?
国の施策としては補助金の他に,助成金や給付金があります。助成金や給付金は,要件を満たした事業者であれば事業の支出に関係なく受給できるものが多いです。対して補助金は,機械設備やシステムの導入や工場の新築工事など,何かしらの設備投資に対して,その経費の一部を補助するものです。したがって事業者側の支出が必要という点で,助成金や給付金とは異なります。
どんな種類があるの?
補助金の財源は税金のため,国や地方自治体が公募を行なっています。ただし一口に「補助金」と言っても管轄の省庁によって様々な施策・特徴があり,都道府県や市町村独自の補助金も多数あります。
中小企業診断士をはじめとするいわゆる支援者が関与するのは,主に経済産業省,もっと言うと中小企業庁が管轄している補助金が中心となります。(診断士の登録先を考えれば当然かもしれません。)
2022年2月末時点では,中小企業庁管轄の補助金として以下のようなものが例として挙げられます。
- 事業再構築補助金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- IT導入補助金
- 事業承継・引継ぎ補助金
詳しくは中小企業庁ホームページをご覧ください!
補助金の特徴は?
補助金には次のような特徴があります。後で一つ一つ見ていきましょう。
- 一定の支出に対してその経費一部を補助する
- 借入金のように返す必要がない
- 申請した全ての事業者がもらえる訳ではない
一定の支出に対してその経費の一部を補助する
上述のように,補助金は何かしらの設備投資に対して補助を行うものであるため,事業者側の支出が必要となります。
投資金額の全額を補助する施策はごく稀であり,多くの施策は補助対象経費の「2分の1」や「3分の2」といった補助率と「1,000万円」などの補助上限額が決まっています。あくまで初期投資のリスクの軽減が補助金の役割となります!
※補助率が3分の2,補助上限額が4,000万円の補助金の場合,投資総額に応じて補助金額は次のように決定されます。
投資総額(税抜) | 計算式 | 補助金額 |
3,000万円 | 3,000万×2/3=2,000万 | 2,000万円 |
6,000万円 | 6,000万×2/3=4,000万 | 4,000万円 |
9,000万円 | 9,000万×2/3=6,000万 ※上限額を超えているため補助金額は上限額となる | 4,000万円 |
※以下は事業再構築補助金の例です。企業規模や申請枠によって補助率や補助上限額が異なる場合が多いです。
借入金のように返す必要がない
企業が何か大きな投資をしようとする際,多くの場合は金融機関から借入を行います。そうすると当たり前ですが「返済」が必要です。
しかし補助金は原則返還不要!(収益が上がり過ぎてしまった場合に一部返還となる収益納付という制度が適用されている場合があります。)投資金額が少なくて済む分,高い利益率が期待できます。
※ただし一般的に,補助金の入金は全ての支払いが完了した後のため,立替は必要です!(以下は事業再構築補助金の補助金支払のタイミングです。)
申請した全ての事業者が受給できるわけではない
ここが1番の辛いポイントです…!助成金や給付金は,要件さえ満たしていれば申請者全員が受け取ることのできる施策です。対して補助金は,より優れた事業計画が優先して採択を受けます。したがって苦労して申請したとしても補助金が下りるかどうかは分からないのです。
事業再構築補助金(通常枠)は3〜4割,ものづくり補助金一般型では3〜6割など,人気の大型補助金はあまり採択率が高くありません。(補助上限額が億単位となる超大型補助金では,採択率が10%を下回ったこともあります。)
事業者様が補助金申請の支援を受ける理由として,確実に採択されたい!採択可能性を高めたい!という思いがあることが分かります。
どうしたら補助金がもらえるの?
大まかには以下のようなステップとなります。後でそれぞれ簡単に説明していきます。
- 公募要領を読み,申請要件に該当することを確認
- 必要書類一式を準備
- 期日までに申請
- 採択された計画で交付申請
- 事業を実施
- 補助金の交付
公募要領を読み,申請要件に該当することを確認
公募要領でそもそも公募にある要件を満たしているかを確認します。この要件が複雑で,事業者様自身で判断をするのが難しい場合もあります。
※次の画像は事業再構築補助金の要件の一部です。全ての要件を確認するためには補助金の「概要」ではなく「公募要領」のチェックが必要です。
必要書類一式を準備
指定された様式や決算書,事業計画書,従業員名簿などの書類を用意します。中小企業庁管轄の補助金では電子申請が主流となっているため,最近では各書類のPDF化が必須です。
期日までに申請
当たり前ですが締切を1秒でもすぎると申請できなくなります。最近では電子申請をする補助金が増えてきました。経済産業省管轄の補助金では多くの場合,事業者様で「GビズIDプライム」というアカウントを取得しての電子申請が必須になっています。
GビズIDについては,以下の記事もぜひご参照ください!
採択された計画で交付申請
「採択」されたら補助金がすぐ交付されるのかな?と思いきや,実はその後もたくさんの手続きがあります。採択後まず必要なのが「交付申請」です。
申請時の事業計画を精査して補助金交付希望額を確定します。この時,経費の相見積もりが必要となります。交付申請が認められると,「交付決定」が下り,ようやく事業を開始できます。
事業を実施
交付決定された内容で事業を開始します。見積もりまでは交付決定前に取れますが,発注は交付決定後にしかできません。
事業内容に変更が生じてしまう場合は,事務局への報告と申請が必要です。また補助金の対象となる経費については,発注書や納品書、領収書といった証拠書類を全て時系列順に保管しなければなりません。
補助金の交付
事業が完了したら速やかに実施した事業内容や経費を報告(実績報告)します。報告後,確定検査という問題なく実施されたかどうかの確認が行われ,認められると補助金額が最終確定となり,補助金の交付を受けられます。
※以下はものづくり補助金の例です。他の補助金でもほぼ同じ流れを辿ると考えて大丈夫です。
ちなみに,補助金が交付された後でも5年間の事業化状況報告が求められる場合が多いです。補助事業の効果がしっかりと出ているかを確認するため,決算情報などを報告します。
補助金の申請は大変って本当?
大変の定義にもよりますが,これは「本当」だと筆者は考えています。補助金申請が大変な理由を見ていきましょう。
不備があれば即アウト
補助金の申請には基本的に「差し戻し」がありません。必要書類に一つでも漏れがあれば,即不採択となります(審査対象から外れる場合もあります)。不備がないように何度もチェックを行う必要があり,非常に手間がかかります。
事業計画書の策定に時間と手間がかかる
中小企業庁管轄の補助金では事業計画書に定められた形式がないことが多いため,自由形式でA4サイズ10〜20枚程度の事業計画書を策定しなければなりません。補助金ごとに記述しなければならない項目もあることから,事業者様だけで申請を行うには80〜100時間程度の準備時間が必要と言われています。
事業計画書のボリューム感が気になった方は,ぜひ事業再構築補助金の公式サイト上にある「採択事例紹介」をご覧ください。
採択されたら終わり,ではない
上でも述べたように,補助金申請では採択後にたくさんの手続きがあります。交付申請,交付決定,事業の実施,遂行状況報告,実績報告,確定検査,補助金請求などなど,採択後の方が手間がかかるとも言われています。あまりの大変さにギブアップして採択を辞退してしまう事業者様もいるくらいです。
また経理証拠書類の保管・整理も補助金申請用に厳密に行う必要があるため,専属の経理担当者がおらず,経営者の方が1人で処理をする場合はかなりの負担となります。
事業実施の期間や支払いについて拘束を受ける
補助金申請を行った事業に関しては,補助金のルールに則って事業を実施しなければなりません。例えばものづくり補助金の一般型通常枠では,交付決定から支払い・検収までを10ヶ月以内で完了させる必要があります。また,交付決定前に契約することは原則できません。
設備の納入と支払いのタイミング・方法も指定(設備納入後に支払い,原則銀行振込など)されているため,通常時の設備投資とは勝手が異なってくる可能性があります。
「補助金はもう終わり」と言われているのはなぜ?
主な理由としては「コロナ禍で一気に増えた補助金施策が来年にはなくなると予想されているから」です。
事業者様の間で補助金が盛り上がったのは,コロナ禍を背景に,令和2年度「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」,令和3年度「事業再構築補助金」といった大型補助金が設けられてからです。社会情勢が厳しい中で,なるべく低リスクで事業展開をしていきたいと考えるのは至極当然と思われます。
しかしこれらの補助金が出されたのはコロナ禍という危機を乗り越えるためです。今後永続的に続く保証はありません。事実として,総額1兆円を超える大規模な予算編成がなされた「事業再構築補助金」は令和4年度中に3回の公募を行うことは決定しているものの,その後の公募が行われるかは不明です。全ては国の予算で決まるため詳しいことはまだ分かりませんが,大方これらの施策はなくなるのでは,と予想されています。
終わりに
本記事では中小企業診断士受験生の方向けに,補助金の概要をまとめてみました。いかがだったでしょうか?
少し話は変わりますが,感染症流行下で商工会・商工会議所が実施した支援のうち,小規模事業者の満足度が最も高かったのは「支援策(補助金・給付金・助成金・融資制度等)の情報提供」だったというデータがあります※。複雑かつ難解な仕組みの補助金制度について我々が事業者から求められているのは,各制度への深い理解と正確な情報提供,適切な支援という役割ではないかと筆者は考えます。
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「小規模事業者の環境変化への対応に関する調査」(2020年11〜12月)による
以下の記事もぜひご参照ください!
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